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東京高等裁判所 昭和50年(ネ)2166号 判決 1976年7月05日

控訴人 大泉砕石株式会社

右訴訟代理人弁護士 星野恒司

被控訴人 東日重車輛株式会社

右訴訟代理人弁護士 軍司育雄

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文同旨の判決を、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用及び認否は、控訴代理人において当審証人長谷川士郎の証言を、被控訴代理人において当審における控訴人代表者伊藤靖の本人尋問の結果を援用したほか、原判決事実摘示(ただし、原判決四枚目表一二行目「塚本運輸有限会社」を「塚本重機運輸有限会社」と、同八枚目裏二行目「転圧」を「展圧」と、同一〇枚目裏七行目「的場堯」を「的塲堯」と訂正する。)と同一であるから、これを引用する。

理由

一、賃貸借の成立について

被控訴人は、被控訴人と控訴人間において昭和四八年三月二三日に本件機械の賃貸借が成立したと主張するけれども、本件機械の賃貸借が被控訴人と大剛建設との間に同日成立したことは後記認定のとおりであるが、その頃被控訴人及び控訴人間に本件機械の賃貸借が成立したことは、本件全証拠によっても、これを認めるに足りない。被控訴人の右主張は理由がない。

二、名板貸人の責任について

1.原審証人的塲堯の証言(ただし、後記措信しない部分を除く。)並びに当審及び原審における被控訴人代表者伊藤靖の本人尋問の結果によると、大剛建設(すなわち訴外大剛建設株式会社)は、控訴人の肩書住所地にある事務所・工場敷地内通路の舖装工事を控訴人から請け負い、その工事を施行するためにタイヤローラ及びマカダムローラを必要としたので、昭和四八年三月二三日にローラ重機類の賃貸等を業とする被控訴人に対してタイヤローラ及びマカダムローラ各一台の賃貸借を申し込んでその賃貸借が成立したこと、右賃貸借の成約はもっぱら双方の代表者である的塲堯と伊藤靖間の電話によるものであるが、その通話のなかで、的塲代表は、大剛建設がその賃貸借の申込人であることを告げず、また通話者自身誰であるかをも明かさないで、控訴人の商号を使用して右申込をおこない、他方伊藤代表も賃貸借申込人は控訴人であると信じてその承諾をしたことが認められる。原審証人的塲の証言中右認定に牴触する部分はにわかに措信しがたい。

本件機械の賃貸借は、右にみたとおり、大剛建設が控訴人の商号を使用してその申込をしたものであるが、しかし、控訴人が大剛建設の右商号使用について明示の許諾をしなかったことは、原審証人的塲、同服部、当審及び原審証人長谷川の各証言によってこれを認めることができ、右認定をうごかすに足る証拠はない。

2.被控訴人は、大剛建設による控訴人の商号使用については、被控訴人の挙げる事実関係(原判決三枚目表六行目から五枚目裏五行目まで)から黙示の許諾があったものというべきであると主張するので、以下検討することとする。

(一)被控訴人の主張は、まず大剛建設の前記舗装工事請負の特殊性によって本件商号使用の黙示的許諾を推認しうべきものとするが、原審証人的塲の証言及びこれにより真正に成立したと認める乙第五号証の一、二、同服部の証言及びこれにより真正に成立したと認める乙第四号証、原審証人市川幸男の証言、当審及び原審における証人長谷川の証言、被控訴人代表者伊藤の本人尋問の結果をあわせると、砕石の販売業者である控訴人が舗装業者である大剛建設に対して舗装材料たる砕石の販売を昭和四七年七月から同年一一月にかけてした四か月間の取引高は一三四万七三六〇円にのぼるが、そのうち一一七万一六六〇円の売掛代金債権につき同年一二月三〇日及び昭和四八年一月三一日の二度にわたる手形不渡などにより取立が容易ならざる事態となったことから、控訴人は、自己の事務所・工場構内の通路の舗装工事を請負により大剛建設に完成させ、その工事請負代金債権と右売掛代金債権との相殺をはかることとしたところ、大剛建設もこれに意欲的に応じ、控訴人系列のうち筑波株式会社のばら園内舗装工事をも追加させて、双方一挙両得を期していたこと、当初工事代金は一平方メートルにつき二四二〇円の単価で見積られたが、舗装材料のうち砕石を全部注文者たる控訴人において供給するものとした点を再検討した結果、単価を一五〇〇円として出来高三〇〇万ないし四〇〇万円が見込まれたこと、大剛建設の右工事用重機としてタイヤローラ及びマカダムローラ各一台が必要であることは控訴人の諒知するところであり、その費用も右単価一五〇〇円の算定基礎に含まれていたこと、大剛建設の的塲代表が業界ではあまり評判がよくなく、昭和四八年に入って業績も悪化していたが、大剛建設の右請負工事の完遂能力自体については、控訴人及び別途債権者たる訴外市川幸男の周知するかぎり、格別の不安材料を見出しえなかったことを認めることができ、右認定に反する証拠はみあたらない。

大剛建設の前記舗装工事請負について、右のとおり認められるかぎり、これをもって被控訴人主張の黙示の許諾の徴憑ないし間接事実とするには足りないと解すべきである。

(二)原審証人的塲の証言、当審及び原審における被控訴人代表者伊藤の本人尋問の結果によると、本件賃貸借の成約を話し合った電話通話は、大剛建設の的塲代表が控訴人の事務所の電話を使用して被控訴人の伊藤代表との間に交わしたものであり、また、本件賃貸借期間中的塲代表が控訴人電話を使用して本件機械の故障修理等を被控訴人に要請し、右電話要請に応じて被控訴人が本件機械の故障につきその修理及び入替をときにしたことが認められるが、的塲代表による控訴人電話の右使用は、当審及び原審証人長谷川の証言によると、工事の作業現場が控訴人の事務所・工場の構内であったことから、いずれも控訴人の大剛建設に対する便宜供与にとどまるものであることが認められる。そして、右電話使用をも含めて、そのようなことにより、控訴人の事務所・工場等の場所が前記舗装工事かぎりの作業現場であるにとどまらず、さらに大剛建設の企業組織上の営業場所として使用されていたことを肯認しうる証拠はなにもないし、的塲代表による控訴人電話の右使用にしたところで、片方の対話者でしかありえない的塲代表の片面的かつ断片的通話の内容もさることながら、その電話使用時における控訴人事務所の具体的状況を審らかにする立証がないかぎり、これをもって被控訴人主張の黙示の許諾を推認するによしなきものというのほかはない。もっとも、原審における被控訴人代表者伊藤の本人尋問によると、的塲代表が前記発注電話のなかで、「以後の連絡は大泉砕石の服部さんか仁平さんにして下さい。」といっていることが認められるが、原審証人長谷川の証言によれば、控訴人における営業部長が服部博考であり、配車担当者が仁平県であることを認めうるが、当審における被控訴人代表者伊藤の本人尋問の結果によると、被控訴人は、右服部ないし仁平についてその心当りを確認するまでのことはしなかったことがうかがわれるし、同人らが右にいう連絡先たることを裏付ける証拠もみあたらないから、右連絡先に関する電話をもって右の推認に資する余地もないというべきである。

(三)原審証人的塲、同塚本の各証言並びに当審及び原審における被控訴人代表者伊藤の本人尋問の結果によると、的塲代表が電話をもって塚本運輸に対して控訴人の塚本運輸に対する依頼であるとして被控訴人の住所から控訴人の住所まで(その距離約四〇キロメートル)タイヤローラ及びマカダムローラ各一台を運送すべきことを依頼したこと、そこで塚本運輸が同年三月二四日に被控訴人に対して控訴人の依頼にもとづく運送である旨の口上を伝えて被控訴人から本件機械の引渡を受け、控訴人の事務所前までその運送をはたしたことが認められる。しかしながら、塚本運輸の被控訴人に対する右口上の趣旨にもかかわらず、控訴人が的塲代表を通じて塚本運輸に対し右運送を委託したことは、原審証人的塲、同塚本の各証言によっても認めるに足りず、ほかにこれを認めうる証拠はなく、原審証人長谷川、同服部の各証言によれば、右運送委託といい、右引渡要請といい、いずれも控訴人の関知しないことがらであることがうかがわれるから、塚本運輸が的塲代表の右電話依頼を信頼して右運送を受諾し、また、被控訴人が塚本運輸の右口上を信頼して本件機械の引渡をしたからといって、これらの事実から被控訴人主張の黙示の許諾を推認することはできないというべきである。

(四)当審及び原審における証人長谷川の証言並びに被控訴人代表者伊藤の本人尋問の結果によると、被控訴人の女子事務員で、伊藤代表の指示にしたがい、同年三月二五日に控訴人の経理担当者に対して電話で問い合わせ、控訴人の取引決済はその月の末日締切りをもって次の月の二五日にするものとしていることを聞き得たものがいるが、同事務員は、その電話のなかで、本件機械の賃貸借にもとづいて電話照会に及んだ次第を告げたわけではなく、照会者が誰であるかが問題にされない単純な問い合わせをしたまでのことであり、これに対し、右経理担当者も本件機械の賃貸借関係とはまったくかかわりのない一般的事項として、照会者不問のまま単純に応じたものであることを認めうるから、右のとおり電話照会に対する回答が得られたからといって、これをもって被控訴人主張の黙示の許諾の推認に資するには足りないというべきである。

(五)原審証人的塲の証言及びこれにより真正に成立したと認める乙第三号証、同塚本、同市川、同服部の各証言、当審及び原審における証人長谷川の証言、被控訴人代表者伊藤の本人尋問の結果及び同伊藤の本人供述により真正に成立したと認める甲第四号証の一から四までをあわせると、次のとおり認めることができる。

被控訴人は、本件機械の賃借人は控訴人であるとして、同年三月二四日から三一日までの八日間の賃料一〇万四〇〇〇円につき同年三月三一日付をもって、及び同年四月一日から三〇日までの二七日間(降雨による休業三日分を除く。)の賃料三五万一〇〇〇円につき同年四月三〇日付をもって、それぞれ賃料算定を明らかにした納品書と題する書面を作成して控訴人あてに郵送し、右納品書はそれぞれ四月上旬及び五月上旬控訴人に到達したが、控訴人の総務部長たる長谷川士郎は、本件機械の賃借人の表示に控訴人の商号が使用されていることはおよそその念頭になかったので、三月三一日付納品書を受領した際、その名宛人が控訴人となっているのは同納品書の単純な間違いと思いなして、本来の名宛人であるべき大剛建設に回付すべく当時大剛建設の前記舗装工事に従事していた訴外市川幸男に対して的塲代表に右納品書を手交するように依頼しておいたところ、的塲代表も右間違いを認めてこれを受け取ったことから、右納品書の名宛人の間違いについては、大剛建設と被控訴人間で処理されるものと期待していた。ところが、同年五月上旬またも被控訴人から四月三〇日付納品書が届けられるに及んで、すでに同年三月末頃塚本運輸から控訴人あてに本件機械の前記運送にかかる運賃三万円の支払いを求める旨の請求書が届けられ、控訴人の営業部長服部博考がこれに対して折り返し電話で右運賃は大剛建設に請求すべきものである旨をことわり、塚本運輸も右運賃請求は大剛建設あてにしなおす旨を回答したといういきさつもあったところなので、長谷川総務部長は、さきの三月三一日付納品書の名宛人の表示につき大剛建設と被控訴人間で是正措置がされていないことをみてとり、急遽的塲代表に要求して、本件機械の賃貸借は被控訴人と大剛建設間の契約であること、賃料の支払い及び賃借期間中の本件機械の管理は大剛建設がするものであることなどを記載事項とした同年三月一三日付(この日付は、前記舗装工事請負に関する見積書の作成日付と同一である。)念書を大剛建設から徴し、他方被控訴人に対し電話で来社を要請し、その要旨を伝えた。右電話要請に応じて、ただちに被控訴人の伊藤代表がやってきたが、塚本運輸の代表者塚本芳郎も伊藤代表に誘われ、被控訴人と同じ立場にあるものとして、右来会に加わった。そこで、長谷川総務部長は、伊藤代表及び塚本代表に対し、本件機械のような舗装工事用重機については、前記舗装工事請負契約上当初からその請負人である大剛建設が一切もってもらうものとする一般的事例に従っていることを書類によって示しながら、本件機械の搬送にもとづく運賃請求及び賃貸借にもとづく賃料請求は、いずれも大剛建設に対してなされるべきものであって、控訴人において右請求に応ずべき筋合のものでないことを釈明した。その際大剛建設の前記舗装工事が完成したときには、その請負代金中から右賃料及び運賃の支払いが得られるよう、控訴人において責任をもって取り計らうべきことが話し合われたが、本件機械の賃貸借及び運送の各発注者(申込人)が控訴人であるとした折衝はさらになく、伊藤代表及び塚本代表も前記取り計らいの言質を得た程度でひきさがるほかなかった。

かように認められ、右認定に反する証拠はない。右に認定したような事情のもとにおいては、被控訴人の控訴人に対する三月三一日付納品書が郵送されてから約一か月間その名宛人の間違いについて控訴人が被控訴人に問い合わせるなどの措置をとらなかったこと、同四月三〇日付納品書が郵送されるや急遽控訴人が大剛建設からその日付を前記舗装工事見積書の作成日付の日である同年三月一三日に遡らせて作成させた念書を徴したことは、いずれも、特段の事情の認めるべきものがないかぎり、これをもって被控訴人主張の黙示の許諾の徴憑ないし間接事実とするのは当らないというべきである。もっとも、右の認定事実によれば、控訴人は、塚本運輸の運賃請求書に対しては折り返し電話でその名宛人の間違いを指摘していながら、被控訴人の三月三一日付納品書については大剛建設に対してこれを回付してその善処を求めるにとどめて、それぞれ別異の取扱をしていることが明らかである。しかしながら、前掲甲第四号証の一から四まで及び当審における被控訴人代表者伊藤の本人尋問の結果によると、被控訴人の事務処理上、ローラ重機を賃貸に供する場合において、賃貸重機の引渡時の段階では、その重機の納品、受領につき伝票類を切ることを一切省き、賃料の支払い請求時の段階にいたって、ようやく賃貸重機これこれをしかじかの条件で納品した旨の記載事項の納品書を相手方に送り、この納品書の記載事項をもって賃料請求のそれを兼ねさせるといった簡易な方法をあえてとっているが、右納品書の書式及び内容の記載事項からして請求書を兼ねるものとは必ずしもいえないものであることが認められるところ、この認定事実に原審証人服部、当審及び原審証人長谷川の各証言をあわせると、控訴人が塚本運輸の運賃請求書と被控訴人のローラ重機の納品書とでその取扱いを別異にしたことに格別の他意はなく、請求書と納品書の一般的差異に応じて別異の取扱いをしたにすぎないことがうかがわれるから、他に特段の事情のないかぎり、右別異取扱いも、これをもって被控訴人のいう黙示の許諾を推認するには足りないというべきである。

そして、右(一)から(五)までの個別的各認定事実は、これを全部総合してみても、被控訴人主張の黙示の許諾を推認するには足りないし、ほかに大剛建設が控訴人の商号を使用して本件機械の賃貸借をしたことを控訴人において許諾したことを肯認するに足りる証拠もないから、名板貸人の責任についての被控訴人の主張は理由がないといわなければならない。

三、結論

以上説示したところによれば、被控訴人の控訴人に対する本訴請求は失当として棄却すべきものであることが明らかである。

そこで、被控訴人の請求を認容した原判決は不当であるから、これを取り消して被控訴人の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡田辰雄 裁判官 中川幹郎 尾中俊彦)

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